今ごろになって、ではあるのですが、今年初めての更新です。
さて、昨日14日、奈良地裁で奈良県田原本町の医師宅放火殺人の供述調書漏洩事件の第5回公判が開かれました。この事件については昨年5月2日のエントリ「能ある鷹」「続・能ある鷹」でも触れたことがありますが、昨日の公判ではこの騒ぎの張本人といっていいフリージャーナリストの草薙厚子さん(44)の証人尋問が行われたわけです。で、フクトミ久々に奈良地裁へ応援に行ってきたと。
いやあ、草薙さんサンドバッグ状態でした(笑)。
刑事裁判で証言するのは、多くが検察側か弁護側どちらか一方の証人であるわけです。で、証人が厳しい反対尋問に立ち往生しかけると、異議をはさむなりして助け船が出されたりするわけなんですね。
ところが今回の草薙さんは、そもそも草薙さんの立件を視野に入れていた検察側にとっても、それから﨑浜盛三被告(51)の被害者的側面を強調したい弁護側にとっても、攻めたい対象なわけです。で、証言台の草薙さんをはさんで、右と左の両方からステレオ状態で厳しい尋問が延々浴びせかけられた、という次第です。
それにしても検察官、弁護人の舌鋒がともに鋭かったことを差し引いても、草薙さんの証言には同業者として首をかしげたくなるものが多かったっす。
ま、フクトミ少々疲れてるので前置きはこれぐらいにして、興味を持たれた方は以下のやりとり詳報を読んでみてください。この時間までかかってMSN産経ニュースやイザ!にアップされているものを5倍余りのボリュームに増やしたので、例によって長くてとても読みやすいものとはいえませんが。それでも何とか1万字の字数制限ぎりぎりには収まりました。
前述「能ある鷹」のエントリに検察側の冒頭陳述がアップしてあるので、先にそちらに目を通していただいた方が、多少は分かりやすいかと思います。さらに興味をかきたてられた方は、講談社のHP(http://www.kodansha.co.jp/emergency2/index3.html)に、今回の事件を受けた調査委員会の報告書と、それに対する草薙さんの反論がアップされているので、そちらもぜひ。
ではどうぞ。
奈良地裁で14日開かれた医師宅放火殺人の供述調書漏洩事件の公判で、草薙厚子さんに対する尋問の主なやりとりは次の通り。
《草薙さんは上下黒のパンツスーツ姿。証人としての宣誓の際、宣誓書を持つ手が小刻みに震えていた》
草薙さん「(宣誓を終えた直後)尋問の前に、情報源について発言させてほしい」
裁判長「許可しません。尋問を始めてください」
検察官「あなたは『僕はパパを殺すことに決めた』の著者か」
草薙さん「はい」
検察官「以後、『僕パパ』と呼びますが、『僕パパ』の帯には『3000枚の捜査資料に綴られた少年の肉声を公開』とある。長男の供述調書を入手したのか」
草薙さん「はい。コピーを入手した」
検察官「だれから入手したのか」
草薙さん「今まで情報源を秘匿してきた。今日、証言台に立つにあたり悩んだが、事実関係を明らかにすることが﨑浜先生の利益になると考えた。情報源は﨑浜先生です。(被告席を向いて)﨑浜先生、申し訳ありません」
検察官「いままで秘匿してきたのは」
草薙さん「﨑浜先生の真意が分からなかったから。平成19年9月14日に強制捜査を受けて以来、今日まで﨑浜先生と話すことができなかった」
検察官「何のために秘匿しようとしたのか」
草薙さん「ひとつはジャーナリストとしての生命線だから。もうひとつは﨑浜先生の真意が分からなかったから」
検察官「被告人と知り合った経緯について。いつ知り合ったのか」
草薙さん「18年2月に大阪で。高機能広汎性発達障害のシンポジウムで」
検察官「どうしてそのシンポジウムに参加したのか」
草薙さん「広汎性発達障害に興味があって調べていたときに、そのシンポがあるのを知って。﨑浜先生はそのシンポで演壇に出ていた」
検察官「被告人が今回の放火殺人で長男の精神鑑定をしているのは、どのようにして知ったのか」
草薙さん「複数の情報源から聞いた。法務省の関係者もいた。それで﨑浜先生にメールを送った」
検察官「メールを送ったのはいつか」
草薙さん「覚えていない」
検察官「では、事件の記録を被告人から見せてもらったのは」
草薙さん「18年10月か9月ぐらい」
検察官「10月5日だが、メール送ったのはそのどれぐらい前か」
草薙さん「1、2カ月前だと思う」
検察官「メールを送った後、被告人と会っているか」
草薙さん「はい」
検察官「10月5日に記録を見せてもらったのはどこでか」
草薙さん「﨑浜先生の自宅」
検察官「1人で行ったのか」
草薙さん「いいえ。私のほかに3人、週刊現代の記者、カメラマン、編集者と行った。私の立場は普通のライターではなくて、持ち込みで書くわけではなく、専属で毎週書くのではなく、チームで取材していた。だから私単独で行動することはない」
検察官「そのとき被告人は自宅にいたか」
草薙さん「記者が先に行ったのだが、いた」
検察官「記録を見ているときは」
草薙さん「いいえ。朝7時半ぐらいに訪ねていったのだが、その後、﨑浜先生は出勤されたので」
検察官「資料はどのような状態だったか」
草薙さん「段ボール2つぐらいに詰められていた」
検察官「すべて目を通したのか」
草薙さん「いいえ。私は調書には興味があまりなくて、鑑定書の方に興味があった。編集者が調書に興味を持っていた」
検察官「どのようにコピーしたのか」
草薙さん「調書についてはカメラマンが接写した。鑑定資料についてはコピーの許諾を﨑浜先生に得て、編集者がコピーした。鑑定書は﨑浜先生からコピーをもらった」
検察官「鑑定資料をコピーしたのは10月6日にホテルで被告人と会ったときでは」
草薙さん「そう」
検察官「鑑定書のコピーをもらったのも後日のことでは」
草薙さん「はい」
検察官「まず10月5日のことだけを答えてください。資料はカメラで撮る以外にどうしたのか」
草薙さん「﨑浜先生は『メモしていい』とおっしゃっていたので、持っていったパソコンでメモを打った」
検察官「調書はカメラでの撮影とパソコンでのメモと両方やったのか」
草薙さん「あまりに量が多いので、メモは途中であきらめた」
検察官「読み上げてICレコーダーで録音もしたのか」
草薙さん「それは記者がやっていた」
検察官「最終的にはカメラでの接写に切り替えたのか」
草薙さん「はい。全部撮影したわけではないが」
検察官「カメラで撮るのはコピーと同じことだと思うが、コピーする承諾は得ていたのか」
草薙さん「メモしていいとは言われていた。10時間ぐらいいたが、メモをとるのは不可能なのでカメラに切り替えた」
検察官「量が多いのでカメラで撮影するという許可は、被告人から得たのか」
草薙さん「得ていない」
検察官「資料をみてもいいという許可はいつもらったのか」
草薙さん「18年9月に京都の料亭で会ったときだった」
検察官「9月28日か」
草薙さん「はい」
検察官「そのときにコピーしてはいけないとは言われなかったか」
草薙さん「﨑浜先生はそのとき、裁判官が資料を電車の網棚に忘れて問題になるという話をされていたので、私としてはコピーしても置き忘れちゃいけないよという意味にとった」
検察官「記録をみせてもらえるという話は」
草薙さん「私がトイレから戻ったら約束が出来ていた」
検察官「あなたは被告人に頼んでいないのか」
草薙さん「週刊現代の強い意向があったので、頼んだ。﨑浜先生は『いいですよ』と言ってくれた。ただ、いつかという段取りは私がトイレに入っている間に決まっていた」
検察官「事件の記録はプライバシー上、むやみに見せるものではないが」
草薙さん「調書については公文書だと思っている。重大事件であれば国民に知らせるべき資料だ」
検察官「公文書というのは」
草薙さん「裁判では明らかになるものだから」
検察官「それは公開の法廷で審理されれば、ということでは」
草薙さん「今回の事件は犠牲者が3人の放火殺人。少年であっても逆送されれば公になる。だから調書を使わせてもらった」
検察官「10月5日の夜に被告人と会ったとき、あるいはその後でも、カメラで撮影したという事後報告はしたのか」
草薙さん「していない。私が撮影したわけではないので、そういう意識はあまりなかった」
検察官「あなたもその場にいたのだから、事後報告しなくてはとは思わなかったのか」
草薙さん「すみません、なかった」
検察官「むしろ撮影したことを隠したかったのでは」
草薙さん「そういう気持ちはない」
検察官「その後、月刊現代に書いた記事は事前に被告人に見てもらったのか」
草薙さん「はい」
検察官「それはなぜか」
草薙さん「編集部の意向。週刊現代、月刊現代の編集者は広汎性発達障害についてあまり知識がないので、﨑浜先生に間違っていないかを見てもらいたいということだった」
検察官「では『僕パパ』のときは」
草薙さん「見てもらっていない」
検察官「なぜか」
草薙さん「編集者の判断。たぶん情報源に原稿を事前に見てもらうことはあまりないと思う」
検察官「『僕パパ』に調書を引用するのはいつ決まったのか」
草薙さん「19年1月。より事実に近いものを読者に提供するためにそうした方がいいということになった。私としては広汎性発達障害に焦点をあてて書きたかったが、広く伝えるためには、長男が追いつめられる心境を調書から明らかにした方がいいと編集者に言われた」
検察官「直接カギカッコ付きで引用するのではなくて、週刊現代や月刊現代に書いた記事のように地の文に調書の内容を織り込むこともできたはずだが」
草薙さん「週刊現代や月刊現代はスペースが足りない。引用するなら単行本でなくてはできなかった」
検察官「そうではなくて、なぜ直接引用したのか」
草薙さん「真実性があるということを読者に実感してもらうには、その方がいいから」
検察官「引用の方が真実性が増すとだれかが指摘したのか」
草薙さん「ちがう」
検察官「では、なぜそう思ったのか」
草薙さん「他の雑誌などには事件について誤ったことが書かれていた。だから読者に真実を分かってもらおうと思った」
検察官「地の文であっても分かってもらえるのでは」
草薙さん「編集者としては、調書からの引用ということで興味を持って多くの人に手にとってもらいたいということだった。私としてはよく分からないが」
検察官「引用の方がインパクトがあるということか」
草薙さん「私は編集者ではないので分からない」
検察官「しかし、週刊現代の原稿も最初にメールで編集者に送ったときは調書を引用していたのでは」
草薙さん「調書を参考にはしていたが、引用はしていない」
検察官「メールの記録ではそうなっている。それで編集者が引用はまずいと判断して書き直すことになっている。あなたは、もともと調書を引用して書きたかったのではないのか」
草薙さん「そんなことはない」
検察官「9月に料亭で会ったとき、原稿を事前にチェックしてもらう話は被告人にしたのか」
草薙さん「編集者がした。それは週刊現代の取材の話で、単行本は別」
検察官「『僕パパ』の出版を被告人に伝えたのはいつか」
草薙さん「出版の1週間ぐらい前だった」
検察官「被告人は『前日に受け取った』と話しているが」
草薙さん「出版の2、3日前だったかもしれない」
検察官「そのときに本を渡したのか」
草薙さん「はい」
検察官「調書を引用したとは伝えていなかったのか」
草薙さん「はい」
検察官「原稿を見せないまでも、事前に調書を引用していることは伝えておこうとは思わなかったのか」
草薙さん「編集者ならともかく、一般論としては情報源には伝えない」
検察官「会ったときには『供述調書は信用できない』と言っていたあなたが調書を引用するなんて、被告人は思っていなかったのではないか」
草薙さん「殺意や動機に関しては、調書は捜査官に誘導されている可能性があるので信用できないと思っていた。ただ、事実経過に関しては信用できると思っていた」
検察官「そういう話は被告人としたか」
草薙さん「そのときに殺意についての話をしたと思う」
検察官「『僕パパ』を被告人に渡したとき、被告人は読んでいたか」
草薙さん「いいえ。編集者から渡したので、私から直接渡したわけではない」
検察官「本の中身ではなくても表紙とかは」
草薙さん「見てはいると思う」
検察官「表紙などを見たときの被告人の反応は」
草薙さん「私には無反応に見えた」
検察官「この本は被告人に受け入れられたと思ったか」
草薙さん「受け入れられたと感じた」
《尋問する検察官が次席検事に交代》
検察官「情報源を話すのが被告人のためになると思ったのはなぜか」
草薙さん「事実関係を話すことこそが、被告人の利益になると思った。﨑浜先生はすべて話をしたと聞いた。私としては﨑浜先生が資料を見せてくださった正当性を話したいと思い、情報源を明らかにした」
検察官「これまではすべてを明らかにしたいという被告人の真意が分からなかったということか」
草薙さん「はい」
検察官「10月5日に事件の記録を見せてもらったとき、罪の意識はあったか」
草薙さん「どうして私が罪の意識を持つのか。なかった」
検察官「こっそり見せてもらったことに罪の意識はなかったのか」
草薙さん「調書が秘密文書だとは思っていない」
検察官「長男が逆送されれば法廷で公になるものだが、少年事件の調書が公になるものとは限らない」
草薙さん「でも公にしなければならない重大事件だ。どうして事件が起きたのか国民は知りたいはずだ」
検察官「確認だが、悪いという意識はなかったのか」
草薙さん「なかった」
検察官「被告人に迷惑をかけることになるとも思っていなかったのか」
草薙さん「思っていなかった。これは秘密漏示にならないと考えている」
検察官「被告人が席を外していなかったら、調書をカメラで撮っていたか」
草薙さん「﨑浜先生がいたら、撮っていいか尋ねていたと思う」
検察官「席を外していたので撮りやすかった面は」
草薙さん「私は撮っていないので分からない」
検察官「席を外すのはどちらから言い出したのか」
草薙さん「﨑浜先生がお勤めに出られるので、『その間に見てください』ということだった」
検察官「調書を引用したのは結局、売り上げを伸ばすためではないのか」
草薙さん「編集者はそうかもしれないが、私はお金儲けのためにやっているわけではない」
検察官「さきほど被告人には謝罪したが、長男に何か言いたいことは」
草薙さん「きちんと更生してほしい」
検察官「『僕パパ』を出版したことが更生を妨げるとは考えないか」
草薙さん「まったくない。更生のためには事実を知らなければならない」
検察官「父親に対しては」
草薙さん「あの本の内容は非常に酷だとは思うが、父親の虐待がなければ事件は起きなかった。不満な点があれば告訴するのではなく、直接、講談社と私に言ってほしかった。そういうチャンスはあったと思う」
検察官「プライバシーを害したという意識は」
草薙さん「ない」
《午後0時10分すぎに検察側の尋問は終了。昼の休廷をはさみ、午後1時半からは弁護側が尋問を行った》
弁護人「あなたがこの放火殺人事件を取材しようと思った目的は」
草薙さん「広汎性発達障害に非常に興味を持っていた。今回の事件を取材して世間に広汎性発達障害を広めることで、同種事件の再発を防止できると思った」
弁護人「これまで少年事件を多く取材しているのはなぜか」
草薙さん「少年鑑別所に以前勤めていたことから、少年事件を防止できればと強く考えたから」
弁護人「事件が起きる原因を究明して、社会に広めれば防止になるということか」
草薙さん「はい。社会全体の利益になると思う」
弁護人「事件直後のマスコミの報道は正しいものだけだったか」
草薙さん「ちがった。継母との確執から起こった事件だとされていた」
弁護人「誤った報道を放置することに利益はあると思うか」
草薙さん「ない。訂正し、真実を報道しないといけない」
弁護人「正しい情報を流すことが長男の利益になると考えたのか」
草薙さん「そうだ」
弁護人「事件当時、広汎性発達障害が取り上げられることは」
草薙さん「あまりなかった。日本で広汎性発達障害のことを取り上げているジャーナリストは私1人だと思う」
弁護人「本件について19回にわたり取り調べを受けたのか」
草薙さん「はい」
弁護人「取り調べの内容が外に漏れることはなかったか」
草薙さん「あった。私は情報源を話していないのに、NHKに私が自白したと報じられた。抗議したが撤回されなかったので、民事訴訟になった」
弁護人「それをNHKにリークしたのは誰か」
草薙さん「訴訟でのNHKからの答弁書には、奈良警察と大阪高検だと書かれていた」
弁護人「調書を見せてもらう前に被告人に会ったとき、見せてもらう見返りにお金などを渡すという話はあったか」
草薙さん「ない」
弁護人「では見せてもらった後は」
草薙さん「後もない」
《尋問する弁護人が主任弁護人に交代》
弁護人「『情報源は命を差し出しても明らかにできない』と以前は述べていたが、その理由は」
草薙さん「ひとつはジャーナリストとしての使命…」
弁護人「(発言をさえぎるように)その使命の根拠は」
草薙さん「情報源に迷惑をかけないということと、書くのは私と編集者の責任であるということ」
弁護人「そうではなくて」
草薙さん「いろんな人に取材する中で、情報源として明らかにしてほしくない人もいるので、その意思を尊重するということ」
弁護人「その程度の認識なのか。表現の自由との関係で述べてくれ」
草薙さん「…」
弁護人「そんなことすらも説明できないのか。情報源を秘匿しなければ、事実を知ることはできないからではないのか。表現の自由、報道の自由を侵すのは何か」
草薙さん「公権力」
弁護人「公権力から表現の自由を守るために、情報源の秘匿が必要だからではないのか」
草薙さん「はい」
弁護人「では情報源の秘匿とは、積極的に明らかにしないということだけで足りるのか」
草薙さん「情報源が分からないように発表することも必要だと思う」
弁護人「それは自覚しているのか」
草薙さん「はい」
弁護人「今日の公判で情報源を秘匿しなくなった理由をもう1度」
草薙さん「事実を述べるのが﨑浜先生の利益になると考えた。調書を見せてくださったのが正当な行為だと信じているから」
弁護人「では、それまで秘匿していたのは」
草薙さん「﨑浜先生の真意が分からなかったから」
弁護人「被告人からの取材が可能になったのはなぜだと思うか」
草薙さん「広汎性発達障害を世に広めるのに期待していただいたのかと思う」
弁護人「あなたが広汎性発達障害を広めることのできるまれなジャーナリストだということと理解していいか」
草薙さん「はい」
弁護人「ではさらに調書まで見せたのはなぜだと考える」
草薙さん「…」
弁護人「被告人は『調書は形式的なもので意味はない』と言っていたのだから、見せなくてもよかったのではないか」
草薙さん「編集者は調書の内容に興味を持っていて、私は雇われている身なので」
弁護人「不本意だったが、雇われている身なので『見せてください』と頼んだということか」
草薙さん「不本意とまでは言わないが、私としても資料が増えるのはよかった」
弁護人「被告人と調書をコピーしない約束は」
草薙さん「約束はない」
弁護人「情報源を特定されないようにするという約束は」
草薙さん「約束はない。私の心づもりはあった」
弁護人「原稿をチェックしてもらう約束は」
草薙さん「私は口にしていないが、記者が言ったことになっている」
弁護人「チームとしてあなたもその場にいたのだから、あなたの立場としてチェックしてもらう約束をしたとは言えないのか」
草薙さん「ちがう」
《15分の休廷をはさんで尋問再開》
弁護人「先ほど被告人との間での話は約束ではないと証言したが、それは酒の席での雑談だからか」
草薙さん「はい」
弁護人「9月28日に料亭で被告人に会ったとき、同席した記者が『原稿の最終チェックを先生にしていただいて、本当に危険を回避する方向でやっていきたい』と言っているが」
草薙さん「記者は広汎性発達障害のことがよく分からないので、障害に関する記述に間違いがないように、という意味で言ったのだと思う」
弁護人「記者は『安全のために』と言っているのに、あなたはそう考えたというのか」
草薙さん「はい」
弁護人「『僕パパ』の表紙には、(カメラで撮影した)少年の犯行計画書がそのまま使われている。これはメモをとっただけではあり得なかったことだが」
草薙さん「表紙やタイトルについては私に決定権がなかった」
弁護人「じゃあ、決定権はだれにあるのか」
草薙さん「編集部だった」
弁護人「この本は誰の書いた本なのか。本全体についてあなたは責任を負わないと言うことか」
草薙さん「責任は負う」
弁護人「『僕パパ』を出版したことについて反省していることは何かあるか」
草薙さん「もっと慎重になるべきだった」
弁護人「具体的に」
草薙さん「どうすればよかったかについては、私は編集者ではないのでアイデアはない」
弁護人「あなたはこの本の著者ですよ。『僕パパ』で情報源を特定させないために、どんな努力をしたのか」
草薙さん「この本では特定できないと考えていた。調書は鑑定人だけでなく、付添人だって持っているので」
弁護人「あなたの調書に『死んでおわびするしかない気持ちに追い込まれた』とあるが、そう思った理由は」
草薙さん「﨑浜先生に対し責任があると思ったから」
弁護人「被告人個人に対してだけか。ジャーナリストに対しての責任は」
草薙さん「思った」
弁護人「命をくれとは言わないから、筆を折ってもらえないか」
草薙さん「折りません」
《弁護人の尋問はいったん終了。再び検察官が尋問》
検察官「『僕パパ』が出版されたことによる、父親の気持ちを考えたことがあるか」
草薙さん「はい」
検察官「それなのに『告訴ではなく抗議をしてくればよかった』というさきほどの発言はどういうことか」
草薙さん「私は取材しようと3度訪ねに行ったが、父親は『すみません』というだけで全く会話が成立しなかった。手紙も出した」
検察官「手紙には調書を引用した本を出すと書いたのか」
草薙さん「いいえ。でも家庭内暴力のことは書くと書いた」
検察官「前妻との離婚の経緯も書くと伝えたのか」
草薙さん「伝えていない」
検察官「人に知られたくないと思うのが当然ではないのか」
草薙さん「でも社会性がある情報だと思って書いた」
検察官「長男には更生してほしいと述べていたが、その更生をするのに父親のもとでとは思わなかったのか」
草薙さん「このケースでは、父親のもとで更生するのは無理と考えた」
検察官「それは、あなたがそう考えただけではないのか。このような本を長男が読んでは、父親のもとに戻る妨げになるとは考えなかったのか」
草薙さん「長男は事実を知ることが必要だと思った」
《弁護人も再び尋問》
弁護人「長男の更生のことを考えるのなら、あなたは専門家ではないのだから、このような本が広汎性発達障害である長男の更生に必要なのかどうかを専門家の被告人にこそ聞くべきだったのではないか」
草薙さん「責任転嫁するわけではないが、出版するにあたって情報源の﨑浜先生に意見を聞くかどうかは私には委ねられていない」
弁護人「あなたは弱い立場で、講談社が『これで行こう、これで行こう』と言うから、それに乗らざるを得なかったというのか」
草薙さん「…」
《最後に、草薙さんの経歴をまず確認した上で裁判長が尋問》
裁判長「『僕パパ』は最初から調書を引用するアイデアだったのか」
草薙さん「ちがう。19年1月に、より多くの読者に手にとってもらうために、と編集者との協議で決まった」
裁判長「出版による関係者への影響は考えたか」
草薙さん「帯は過激かなとは思ったが、内容については思わなかった」
裁判長「実際に本の中で広汎性発達障害について触れられている部分は少ないが」
草薙さん「私はほとんどを広汎性発達障害の話で書きたかった。でも一般読者に手にとってもらうためにはこの方が、という意見があって、受け入れた」
裁判長「この本によって広汎性発達障害について啓発が進んだと思うか」
草薙さん「まったく知らない人にとっては啓発になったと思う」
《午後4時過ぎに閉廷。27日の次回公判では被告人質問などが行われる》


by brappi-oggy
「11人の怒れる男」ないしは…