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「処罰」と「更生」

2006/10/21 22:20

 

お久しぶりです。


 すっかり更新をさぼってましたが、仕事をさぼってたわけではないので念のため。通常業務が忙しくなると、どうしてもブログの方まで気が回らなくなりますね。じゃあ、こまめに更新してるときは仕事がヒマなのか、と突っ込まれると困るんだけれども。

 と、アクセスしてくれた一般の人ではなく、社内向けの言い訳みたいな話はこの辺にして。

 なんで仕事が忙しかったのかというと、寝屋川市立中央小の教職員殺傷事件の判決があったのだ。


で、今回の傍聴日記。2日遅れではありますが。

10月19日(木)10:00~、殺人、殺人未遂など判決公判

 「寝屋川市立中央小の教職員殺傷事件」と聞いて、どれくらいの人が事件の概要をイメージできるだろうか。近畿在住の人ならたいていは分かってもらえると思うのだけど、どこに住んでいる人がアクセスするか分からないブログなので、まず、おさらいから。

 事件が起きたのは平成17年2月14日。大阪府寝屋川市立中央小学校に包丁2本を持った男が侵入し、男性教諭1人を殺害、女性教職員2人にも瀕死の重傷を負わせた。
 近畿では京都のてるくはのる事件(平成11年)や大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件(平成13年)に続き、またも「学校の安全」が脅かされた事件だった。しかも、逮捕されたのはこの小学校のOBである17歳の少年だった。

 これだけでも重大事件なのだが、この事件がさらに一歩進んで「特異な事件」となったのは、少年が「広汎性発達障害」と診断され、それが裁判の大きな焦点になったからだ。


 ここで、この事件を語る上で欠かせない広汎性発達障害についてちょっとお勉強を。

 広汎性発達障害とは対人関係やコミュニケーションの障害、強迫的なものごとへのこだわりを特徴とする発達障害を言う。先天的な脳機能障害が原因とみられており、発現率は1%前後(調査によって多少の幅がある)。つまり、学校だったら学年に何人かはいる、という計算になる。

 「広汎性発達障害=アスペルガー障害」と思っている人もいるようだけど、アスペルガー障害は広汎性発達障害の1つのサブタイプに過ぎない。発達障害をごくごく大まかに分類すると





のような感じ(汚い図ですね。
WORDで図を作るのに不慣れなもんで)。ここで「高機能」というのは「知的な遅れがない」という意味。で、「高機能」の広汎性発達障害の中で高機能自閉症にもアスペルガー障害にも分類されないものが「特定不能型」の広汎性発達障害と呼ばれ、この事件の少年は、逮捕後の精神鑑定でこの特定不能型広汎性発達障害と診断された。

 「広汎性発達障害=アスペルガー障害」という誤解が多いのは、アスペルガー障害という言葉を、精神医学にまったく興味がない人にも知らしめた事件があったからだと思う。
 それが、平成12年に起きた愛知県豊川市の夫婦殺傷事件。こう聞いてぴんと来なくても、逮捕された当時17歳の少年の「人を殺す経験がしてみたかった」という供述で思い出すのでは。この了解不可能な動機で殺人を犯してしまった少年が診断された病名がアスペルガー障害だった。

 アスペルガー障害、あるいは広汎性発達障害という言葉が広まるきっかけがこの事件だっただけに、凶暴・残忍な特性をもつ障害、というイメージもあると思う。実際、その後も事件を起こした少年が広汎性発達障害と診断されるケースが相次いだ。これらの中には、当初は「行為障害」など別の診断名がついていた事件も多いが、精神医学の専門誌をみると

  神戸・連続児童殺傷(平成9年)
  全日空機ハイジャック(平成11年)
  愛知県豊川市の夫婦殺傷(平成12年)
  西鉄バスジャック(同)
  岡山県の金属バット母親殺害(同)
  レッサーパンダ帽男による女子短大生殺害(平成13年)
  長崎市の男児誘拐殺人(平成15年)
  長崎県佐世保市の小6女児殺害(平成16年)
  北海道石狩市の同級生の母親殺害(同)
  寝屋川市立中央小の教職員殺傷(平成17年)
  静岡県伊豆の国市のタリウム薬殺未遂(同)
  奈良県田原本町の医師宅放火殺人(平成18年)

 などが広汎性発達障害とされている。ここ数年の異様な少年事件の大半が含まれているといっていい。


 では、広汎性発達障害は「危険」な存在なのか?

 これがそうではない。粗暴性が強いわけではないし、実際、犯罪傾向は障害を持たない人より低いという。むしろ、悪質商法やいじめなど、被害者であることのほうが多いらしい。

 にもかかわらず、なぜこんなに注目を集める事件が多いのか。それは障害そのものが犯罪を引き起こしているのではなく、障害のために対人関係がうまくいかず孤立し、それが原因となっているケースが多いのだという。つまり、「反社会性」ではなくて「非社会性」ですね。
 特に高機能型の場合はなまじ知的な遅れがないだけに、周囲はまったく障害に気づかず、単に「ヘンな奴」「付き合いにくい奴」と疎外してしまいがちになる。


 …というのも、今回の事件で専門書を読み漁った結果の受け売りなんですが。

 こうした知識は得ながらも、正直、「本当かよ」と思っていた。
 「彼は頭の中に浮かんだ『刺す』というイメージにとらわれ、『殺す』という結果にまで考えが及んでいなかった」
 「反省していないのではなく、頭では『反省しなくてはいけない』と分かっていても、心の底からの感情が湧き出てこない」
 「遺族感情を逆なでするような発言も、自分にとって有利か不利かを考えずに、少しでも頭に浮かんだことは正直に口にしてしまうからだ」
 弁護人から、広汎性発達障害に起因する少年の理解しがたい言動について説明を受けても、納得しがたかった。でも、弁護人は「法廷で彼を見てもらえば、私たちが言っていることを多少なりとも理解していただけると思います」と言っていた。

 そして、まったくその通りだった。

 たぶん、これはどれだけ言葉で説明しても、分かってもらえないと思う(フクトミの文章力不足はさておき)。彼のなにげない仕草、発する言葉、その口調。そうした彼の存在そのものが、弁護人の主張を裏付けていた。

 少年は逮捕後に家裁送致され、大阪家裁は逆送を決定。成人同様の刑事裁判手続きに付された。
 公判では、検察側は犯行当時18歳未満の少年への最高刑である無期懲役を求刑。これに対し弁護側は少年法55条に基づき、再び家裁に移送するよう求めた。少年は広汎性発達障害のために心の底からの贖罪意識を持てていない。少年の更生、そして再犯防止のためには障害の治療が必要だが、少年刑務所にはそのノウハウがなく、少年院にゆだねるしかない。一方、少年院での保護処分は家裁でしか言い渡すことができないからだ。

 単純化すれば、検察側は少年刑務所での「処罰」を求め、弁護側は少年院での「更生」を訴えた、ということだ。


 裁判の結果がどうだったかは、長々とした文章にここまで付き合ってくださった方ならもうご存知でしょう。

 主文は、被告人を懲役
12年に処する。未決勾留日数中460日をその刑に算入する。刺身包丁1丁と洋包丁1丁を没収する。


 この結果を、どうとらえるべきなのだろうか。

 1人の尊い生命を奪ったその責任の重大性から考えれば、刑事罰を受けて当然であるし、少年といえども、懲役12年では軽いかもしれない。検察側は論告で、「刑事裁判の本質は、被告人の行為と、それによって生じた結果を正当に評価することだ」と指摘した。けだし名言だと思う。

 一方で、この先、彼がたとえ何年刑務所に入ろうとも、彼はきっと彼のままだろう。

 出所後に再び犯罪を起こすことはないかもしれないが、服役によって得られるものは、彼にとっても、社会にとってもないに違いない。実際、先にあげた一連の広汎性発達障害がらみの事件で、逆送されて懲役刑を受けたものは1件もない。

 「犯罪者がどうなろうと自業自得。とにかく罰することが必要だ」という考え方もあるだろうし、「刑罰の目的は単に犯罪の報いを与えることだけなのだろうか」という疑問もあるだろう。
 フクトミも「刑罰」とは何なのか、ずいぶんと考えさせられた。そして、結論めいたものはいまだ見つかっていない。


 ただ、この事件を通じて2つ、いえることがあると思う。

 1つは、広汎性発達障害の受刑者に対応するための体制を、刑務所は早急に整える必要があること。奈良市小1女児誘拐殺人事件を機に性犯罪者への矯正教育の見直しが進められたように。

 もう1つは、そもそもこんな事件が起きないようにするための方策だ。まずは障害に対する理解と、適切な治療を。


 これまでにない長文のエントリになったのは、書きたいことが多かっただけでなく、少しでも正確に意図を伝えたかったからでもある。初公判からの各公判も、事件発生1年の特集も、18日の朝刊に掲載した「あす判決」の特集も、そして判決当日の記事も、この事件については散々書いてきた(ちなみにイザ!アップされているのはフクトミが大阪発行の産経新聞紙上に書いた記事ではない)。でも、少年法に対する無理解やら、精神疾患と発達障害の同一視やら、弁護方針への誤解やらに基づいた論をあちこちで見るにつけ、まだ書き足らないのだ。「書く」ことへの無力感も味わいつつ。


 とにかく、まだひと区切りとはいえ、いろんなことを考えさせられた事件だった。

 

 




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